知る

静岡県“いちばん北”に行ってみた→日本で3番目に高い山のてっぺんでした

広い静岡県。その東西南北のはしっこは、どんな場所でしょうか。今回は一番「北」の地を訪ねました。そこは南アルプスのど真ん中。高山植物が咲き誇る日本で3番目に高い山の頂上でした。

地図で確認 一番「北」は間ノ岳の山頂

訪れるのは、静岡県の地図で見るとツノのように飛び出た部分です。住所は静岡県静岡市葵区小河内(こごうち)。国土地理院によると北緯35°38′45″、東経 138°13′42″で、山梨県との県境です。

この場所に何があるかと言うと、南アルプスのど真ん中「間ノ岳(あいのだけ)」の山頂でした。

間ノ岳は標高3190m。1位の富士山(3776m)、2位の北岳(3193m)、そして同じく標高3190mの奥穂高岳に並ぶ、日本3位タイの山です。

ちなみに間ノ岳の標高は、昔は3189mで日本4位でしたが、2014年に国土地理院が数値を更新し、1m高くなったため3位タイに繰り上がりました。

一番「北」へのアクセスルート

北岳側から見た間ノ岳、山頂まで登ると静岡県に入る

間ノ岳の山頂へは、山梨県側から入って北側にある北岳、または南側にある農鳥岳を経由して行くのが一般的です。

もちろん、車では行けないので徒歩で登山道を歩いて行きます。

今回は1日目に山梨県の広河原登山口から入り、北岳山頂を通って山小屋に宿泊。2日目に間ノ岳を目指します。

筆者は普段から登山をしており、間ノ岳へも天候や装備に十分注意して挑みました。北岳・間ノ岳の一般登山道は中級者クラスの難易度とされています。経験がない人が準備せず登ると危険ですので、十分注意してください。

北岳から南下して間ノ岳方面へ 標高3000mを超える稜線(りょうせん)を行く

いちばん北から見える景色

2日目の早朝に、間ノ岳に到着。山頂は開けていて、富士山がよく見えました。日本3位から日本1位への眺めです。

間ノ岳山頂からみた富士山

どこからが静岡県で、どこからが山梨県かはっきりしませんが、ここが静岡県のいちばん北です。

ここから南は山の稜線(りょうせん)がほぼ静岡県と山梨県の県境にあたります。足下は岩がゴロゴロしていますが、登山道脇は色とりどりの高山植物に囲まれていました。

間ノ岳から南を見る 稜線(りょうせん)の右手が静岡県側

山頂で「静岡」を探したら

さて、山頂に「静岡」を思わせる何かがあるのか事前にインターネットで調べて来ました。しかし、山梨県の名前が入った山頂標識しか確認できませんでした。

静岡は山頂標識を設置していないのかどうか、まず静岡県に聞きましたが「静岡県としては何か設置したという記録はない」との回答でした。

山梨県と南アルプス市と知らされた標識

また静岡市も、「各山頂に立ててある看板については市では管理していない」との答えで、手がかりは得られませんでした。

期待しないで間ノ岳山頂に到着したのですが、予想していなかった新しめの標識を発見します。

柱の4面に山の名前や地図などが書かれた山頂標識を発見

「ようこそ 南アルプスへ 上河内岳以北から間ノ岳までの大井川源流域は、十山(株)の社有林です。当社では、社有林の豊かな自然を守るため、厳密な基準を設け、森林管理を行っています。入山者の皆様もご協力お願いします。」

そう書かれた四角柱の金属板には、間ノ岳の標高や、静岡の地図が表示され、ここが静岡の一番北に位置していることが記されていました。

この標識に書かれた「十山(じゅうざん)」とは、いったいどんな会社なのでしょうか。

「十山」は広大な社有林を持っていた

十山について調べてみると、静岡県地図の“ツノ”の部分に、2万4430ヘクタールの広大な山林を持つ会社でした。

もともと製紙会社「特種東海製紙」の社有林管理部門でしたが、2020年に分社化。

塩見岳(手前右)と荒川三山(左奥)すべて十山の社有林

十山・総務部の平井岳志さんに山頂標識を設置した経緯を聞きました。

十山・平井岳志さん:
もともと特種東海製紙が設置した標識がありましたが、古くなってきていました。標柱は登山者の安全を守る道しるべです。新しい会社として十山が設立した2020年に、より見やすい標識へと変更しました

その方法は、社員やグループ会社の山小屋スタッフが、自力で金属板や道具を歩荷(荷物を背負って人力で運ぶこと)。手作業で付け替えたそうです。その数、約29カ所。

西農鳥岳の山頂標識 奥に見えるのが間ノ岳

十山の社有林は、創業者の大倉喜八郎氏が1895年に井川の山林2万4430ヘクタールを5万円で取得したのが始まりです。

大倉氏は88歳で、その山林内にある赤石岳(標高3121m)に、総勢200人を連れて登山をしたことでも知られています。

かごに揺られながら山を登っていく写真や、山頂で紋付きはかま姿で万歳する写真が残っており、豪快な様子がうかがわれます。

十山は他にも南アルプスの大自然を守り生かすため、標高1200mの高地でウイスキーづくりに挑戦しているそうです。

十山・平井岳志さん:
更新した標識の中には「幕営禁止」の看板もあります。国立公園の中はテント場が指定されていますが、文字が薄れて読みにくく、違反してテントを張る人が絶えませんでした。標識を見やすくすることで登山者にルールを守ってもらい、植生が回復していくことを目指しています

南アルプスの高山植物

間ノ岳からさらに南へと縦走していく間も、要所要所に十山の標識があり心強く思いました。霧で視界が悪ければ、なおのことでしょう。

静岡県のいちばん北、それは徒歩で1日以上かけてようやくたどり着くことができる絶景の地でした。そして、この場所の自然と登山者の安全を守ろうという山林所有の思いを見つけることができました。

【もっと見る! 静岡県の“いちばん東西南北”記事】

静岡名産のわさびのようにピリッとスパイスが効いた情報を暮らしに。bee=ハチ=8チャンネルと言えばテレビ静岡。あなたの元にミツバチのようにせっせと情報を集めます。
  • BLOG
  • Instagram
  • YouTube
  • TikTok